ホーム » ことば » モズラー(MMT発明者)による資本論のような物価水準・インフレ論を精読する 解説編: ”indifference” って何だろう

モズラー(MMT発明者)による資本論のような物価水準・インフレ論を精読する 解説編: ”indifference” って何だろう

A Framework for the Analysis of the Price Level and Inflation という文章を頭から精読するシリーズの途中ですが、Ⅲに入る前の解説編です。

きっかけ
Introduction 
I. The MMT Money Story 
II. The MMT Micro Foundation- The Currency as a Public Monopoly 
解説編: ”indifference” って何だろう 
が挟まる←いまここ)
III. The Source of the Price Level 
IV. Agents of the State 
V. The Determination of the Price Level 
VI. Inflation Dynamics 
VII. Interest Rates and Wages 
VIII. The Hierarchy of Demand 
IX. Conclusion 

貨幣量、あるいは財政支出額や財政赤字額が物価に影響する、という通念があるわけですが、これは逆で、価格が先に決まって、それらはそれ(価格)に従属するのだというのが革命的なポイントかなと 

民間の労働者の賃金は、公的雇用のそれに従属する。

なるほど

納得です

おや?↓

佐藤さん!期待しちゃう。

「それを通じて切られたのは、民間労働者の給与です」

民間労働者の給与が公務員のそれに従属する。民間給与は団子(景気に合わせて変動する)公務員給与は団子の串(変動しない)っていうイメージがあります。

民間の景気が悪いときに人事院勧告が出て、公務員給与は切下げられる。それにつられて民間給与も下がっていく。

公務員給与を民間に合わせて調節するというのが人事院勧告のタテマエですが、それは話が逆なんですよね。

民間の方が従属してるんですね

「公共事業が民間事業をクラウディングアウトするから、民間にできることは民間に任せよう。そうすれば経済成長して民間の労働者の給料も増えるとか、最適な資源分配がなされる」
というかなり強いイデオロギーがあるんですが、これも逆です。

今の話は、ちょうど次の III. The Source of the Price Level の予習になるのですが、

「価格が”indifference”なところに落ち着く」

という説明があります。

政府は労働力の価格を決めて「ある人数」を雇うわけですが、雇われない人たちは何とかして納税手段を入手する必要があります。
その人たちのことを考えましょう。
商品を売るか、労働力を売る。

”indifference” って何だろう

ここのところ意味がわかりませんでした。

indifferenceは均衡点みたいな意味ですか?

納税義務があるのに公務員にならなかった人は、両方の場合、公務員になるかならないかの選択をしている
いや、ならない方の選択をしている。

このとき、その人の労働力の価格は公務員の給料が基準になって決まりますよね。

公務員の給料より高い仕事や、低い仕事、多少の幅はありますが、大きく外れる仕事は少数で、だいたい公務員の給料が基準になるのは実感として納得できます。

この indifference, つまり in-defferent であることについて理解してほしいわけですが、商品(ここでは労働力)の売り手Aさんと買い手のBさんを考えます。
BさんはAさんを雇おうというときに、公務員給与からかけ離れて安い金額を提示することはできません。

Aさんにしてみれば、それだったら公務員になるわけですね。
同じように、Aさんは公務員給与よりはるかに高い待遇を提示することもできない。

そうですね。

Bさんは、それだったらAさんじゃなくて公務員の人をはじめとした他の人の労働力を買うことができるので。

バブルの頃はみんな民間へ就職して公務員のなり手がいなかったとよく聞きました。

自由な「フリーター」がもてはやされたんですね。
国鉄解体からの、ものすごいイデオロギー誘導だったと思いますよ。

なるほど

それで、indifference levels between buyers and sellers ですが、売り手と買い手の考えに差(difference)がない水準、という意味です。
もし差があったら折り合わないわけで。

そういう意味だったんですね!

ここ、ほとんどの日本人はちゃんと読めないと思います

最初全然わかりませんでした(^^)

経済学を習った人はミクロ経済学で indifference curve 、無差別曲線というのを習うのですが、それも似た考え方です。

似ているのだけれど、言っていることはまるで違う。その考え方だと、価格は個人の効用で決まる。
労働力なら「働く効用」と「働かない効用」が等しくなる水準で決まる、と考える。

実際には水準を決めているのは政府なのに、それはきれいに無視されている感じ…

”source”はどこ?っていうことですね。

マクロ経済学は、貨幣量?財政支出額?財政赤字額?と、いろいろやるわけですが、違うだろうと

わんわんわんわんわ

あああ、落ち着いてください(^^)

でも日本でMMTという言葉を使っている人のほとんど全員そう思ってますよね。
だから「国債を出せ」とか「財政支出を増やせ」みたいにバカなことを言うわけです。

この文章がどんな文章だったかをもう一度確認しましょう

Introduction
はじめに

The purpose of this chapter is to present a framework for the analysis of the price level and inflation. MMT (Modern Monetary Theory) is currently the only school of economic thought that, in direct contrast to other schools of thought, specifically identifies and models both the source of the price level and the dynamics behind changes in the price level with MMT offering a unique understanding of inflation as academically defined as part of its general framework for analysis that applies to all currency regimes.
本文章の目的は、物価水準とインフレの分析の枠組みを提示することである。MMT(現代通貨理論)は、他の学派とはまったく異なり、物価水準の源泉と物価水準の変化の背後にある力学の両方を具体的に特定しモデル化した、現在唯一の経済思想である。MMTは、すべての通貨体制に適用されるその分析のための一般的枠組みの一部として、学問的に定義したインフレに関する独自の理解を提供している。

物価水準の源泉!

モズラーはレイやミッチェルらとの交流が始まる前、1995年に発表した Soft Currency Economics という文章ですでにこのビューを明確に提示しています。

https://econwpa.ub.uni-muenchen.de/econ-wp/mac/papers/9502/9502007.txt

「金利」についてもそっくりな議論が出てきますが、とりあえずは III. The Source of the Price Level に行きましょう。
もうそれほどむつかしくないはず。

はい(^^)

きょうのここまでの話は独立エントリにした方が良いかなあ

タイムリーな話題ですものね

ただわたくしはこれには素直に賛成ではないです

そうだったんですね、どうしてですか?

すでに雇われている人は公務員給与の影響を受けますが、雇われていない人にはまったく関係がないからなんです。

たしかに

失業を放置していては意味がないですね

失業者の賃金はゼロです

金利の話も理屈は同じです。

金利は「すでにカネを持っている人へのベーシックインカム」

給与水準の話もすでに職を持っている人へのベーシックインカム

給与水準だけでなく、公務員の採用を増やす、プラス就業保証をしないと格差をますます拡大する方向にはたらいてしまいます。

そういう視点なしでは人々に支持されないですよね…実際失業状態、不安定雇用、生活できない水準で働かされている人達はいっぱいいるわけで。反省です…。

まあ支持はともかく理屈だけで考えて、求職者の基礎給与がゼロという状態のままなら、民間のそれは必ずそこに近づいていくことになりますね。

そういうことだったのか。

公務員の給与は見かけの水準で、実際には求職者がたくさんいたらゼロの方向に引きずられる?

ヒエラルキー(階層)がありますよね。
公的雇用と言っても総理大臣や東大総長だといくら、から、窓口の派遣さんまでの。階層ごとに相場が決まる。

そうですね

階層の一番下が、仕事が必要だけれども雇われていない人たち。 

なるほど

「民営化」を進めるとそのレイヤーが増えるんですよね

だからこう書きました。

「公共事業が民間事業をクラウディングアウトするから、民間にできることは民間に任せよう。そうすれば経済成長して民間の労働者の給料も増えるとか、最適な資源分配がなされる」
というかなり強いイデオロギーがあるんですが、これも逆です。

あー、逆ですね
民営化するとより少ない賃金でやろうとするし
より低賃金化しますよね

価格、賃金は「取引の結果」という把握がまったく事実と逆なんですよ。だから間違った結論を導いてしまう。 

実際は源泉なのに、結果だとしているのですね。

貨幣量や財政支出額というけれど、価格を先に決めますよね。
現実の財政支出や貨幣の出現よりも、価格の決定が先。

あー!
確かに

何を“いくらで”買うのか。公務員の労働力を“いくらで”買うのか。それを決めないと支出額は決まらないですね。

実際にマネー「で」支払うときには必ず価格は決まっていますよね。これは会計的絶対事実なんです。

はい(^^)

あ、モズラーがこんなツイートを

モズラーがこの文書を重要だと考えているということがわかります。

では、価格が先に決まり貨幣はあとで現れる、というのは経済学の「貨幣乗数」という思想の否定にもなるという話をします。

「貨幣乗数」というのは、政府の作るお金が「元手」になってそれが銀行の「信用創造」になって増幅されるという思考のことですが。

価格が先であり、貨幣はIOU(債務証書)であるだという立場に立つとそれはあまり関係がないということがすぐにわかるので考えてみましょう。

はい(^^)

https://kotobank.jp/word/%E8%B2%A8%E5%B9%A3%E4%B9%97%E6%95%B0-159675

AさんがBさんに牡蠣を送り、BさんがAさんにベーコンを送る。
この取引が終わると外形的にIOUはない。
けれども、AさんがBさんに牡蠣を送るだけだとその時IOUが発生しています。

(ベーコンをすぐに送れないBさんは、これはいくら分だな…みたいに考えるわけで、そのとき基準になるのは平均的な所得水準と思いますがそれは置いておいて)

はい(^^)

この時仮に五千円くらいだな、、、という水準で二人がIOUを取り交わす場合がありますね。そうすると貨幣が発生しているのだけれども、これはべつに政府支出の額とは関係がない。

はい

量とは無関係な一方で、政府が支配する労働力の価格とはすごく関係がある金額になるはずです。

確かに最初にAさんの支出できる金額はAさんの給与と関係ありそうです。

あと、ここでAさんはBさんに送る牡蠣のためにマネーを支出しているとは限らないんです。
自分で育てたかもしれないし、そういう品物(自分で作ったもの)を想定しても事態は同じです。

なんだろ、自分で作ったものでも、贈り物として常識的な金額になるように、みたいなのは確かに考えるかも。

相手からどう見えるかも重要で、仮にAさんが高値を考えてもBさんは同価値の他の物を考えますから、IOUを取り交わすなら indefferent な水準で合意は落ち着くというわけです。

なるほど!indifferent飲み込めたかも!

一般化すると、人と人のあらゆる交換はこの形式であると言うことができるんですよね。

はい

普遍と一般は違うということに注意しとかないと、ですね。

上の動画、How MMT explains the price of everything とありますが、つまりそういうことです。

everything なんですね。
CPIやGDPデフレータなんかでなく、労働力や貸出も含めたありとあらゆるモノの価格

全部!

わかりやすかったです(^^)

これってまったく資本論の理屈ですよね

資本論が単純な交換である相対的価値形態、等価形態から展開して貨幣形態まで説明しているところですか?

あらゆる商品は indifferent な水準で互いに向き合っているわけです

資本論の図

エクセルで作ってもらったこの図でも同じことです

マルクスの時代にエクセルがあったらこの図のように書いていたと思うんですよね

おおー(^^)

向き合ってます

この図は「資本論をちゃんと読む」のシリーズでも使いましょう。

さて、モズラーの本文に戻る前にもう一つ


モノポリスト(独占供給者)は価格を決定することができますが、その価格を実際に維持するためにはすべての取引をその価格で実際に行わないといけない。

はい

たとえば世界の牡蠣の独占供給者になったとしても、誰かが低い値段で転売していたら消費者にとっての価格は意図したものより低くなります。

同じように、政府が労働力の価格を支えたいならば、売りに出ている労働力を全部買わないと実現できないんです。

つまり、仕事をしたい人には全員仕事を保証しないと賃金水準は政府の意図するより低くなってしまう?

意図しても意図しなくても、そうなります

JG(就業保証)がないと現状そうなってますね。

敗戦からバブル崩壊くらいまでは、多くの人からみて擬似的にJGがあるかのような状況になっていたんですよね。

それ佐藤さんも言ってました!

ほんと??

ズームのおしゃべり会で就業保証について質問したときにそう言われてました

敗戦で引き揚げてきた人たちがたくさんいて政府が雇用を保証していたって話でした。

それはうれしい話です

直接雇用だけでなく、たとえば生産者米価が決まっていて米を作れば政府が買ってくれた、とかも同じように機能していたことになります。

なるほど

もちろんですが、大石さんが以前言っていた「介護と保育の所得倍増」も同じように機能します。

そのためには政府がその価格で買う必要があるわけですが

昔は寡婦を雇って旗振りをしてもらうとかあったそうですが、それも雇用保証の一種? (

雇用機会が多ければ多いほど「雇用保証度」は高いと言えるので、そういうことになりますね。

そういう保証を根こそぎ根絶やしにした数十年間だったんですね…

ところで、決めた価格を実現するために政府日銀が無制限に売買しているものがありましたね。

ETFと国債? 

そうです!
ETFは株と不動産ですし、国債を買うとは国債利回りを決めているというわけですよね。

ETFは不動産もですか?

名前は J-REIT ですね

ほんとですね、知らなかったです!!

金融危機にバーナンキがMortgage Backed Securities、MBSを大量に買いましたが、あれも不動産を担保にした貸付金という商品を買い支えたじゃん、というわけです。

労働の賃金水準は保証せずに、株と不動産と国債の価格だけ保証している!

えー!邪悪すぎる…

国債オペは、金利、つまり貸付金という商品の価格維持オペレーションなんですよ。

金利が高いと国債の価格は低く、金利が低いと国債の価格は高くなるんですよね。金利を望ましい水準にすることで国債の価格を安定させているのですね。

あと、米国はものすごい貸し倒れ危機になってからそのあとにFRBが買い支えたのに対し、ジャパンの場合は、危機にならないようにとあらかじめ買い支えているということになります。

どちらが邪悪なんでしょうねえ(笑

ジャパン!

それは趣味の問題かもしれません

価格について、この波の大きさに違いが出ますね
じわじわと確実にやるのが日本流という感じ

疑問なのですが、もし政府が株価を一定価格に固定した場合、金融機関や投資家は投機による利益は出るんでしょうか?

まず、政府日銀が表立ってそれを認めるはずがないということと、決めているのは下限であって、上は解放なんじゃないですかね。

あと、個別には勝者と敗者の両方がいるということなる。マクロ的には持ち主が変わるだけですから。

あと、利益は株価だけでなく配当や自社株買いでも稼げますし、政治家に銘柄を宣伝してもらうこともできちゃうとか。。。

少なくとも、リスクがものすごく小さくなることは確かですよね。

こんなイメージが

これ、いつどうやって売るんだ??、みたいな\(^o^)/

目的としては、金融不安定性を改善したいんですよ。JGPと一緒に株価固定を導入するとします。

国債が金利のバッファストックになるように、ETF的なものが株価のバッファストックになるかどうか。

そこはMMTerに言わせれば「事後に対処する」システムだと不安定になるに決まってる。だから、金融取引を発生させないようにするしかないじゃんと考えるわけですね。

株式会社が主役になっている生産様式をやめる必要があるんです

今ちょうどロシアが撤退した西側企業の資産を国有化するというニュースがありましたが、過激にやるならそういうことも理論的に可能だったり。

しかしそういうことをやろうとすると、株のかなりを持っている金融資本が黙っていないので普通に戦争になってしまう。
だからわたくしとしては、穏便にJGPを静かに導入して、国債もいらないじゃんってことで廃止してOMFにするくらいでどうかと\(^o^)/

真面目な話、株式会社が支配的な生産様式であることを認めたら必ず金融寡頭制となり金融は肥大するわけですよ。
マルクス主義が忌避されるあまり、世界中の多くの人たちがここを見落としていると思うな。

いわゆる「持ち株会社」もそう。

政府がソースであるところの net financial asset を、そうしたところにせっせと溜めていくことが良いことだというのが教義で 

それが増えれば増えるほど幸せになるとみんな信じている。

これを見て、ああこれで私の老後は安心ね、って思うのでしょうか…

それともこんなに収益が上がるということは一体どれだけの金額を大企業にプレゼントしているのか、と思うのか…

GPIFや中央銀行の理事っていうのは、さしずめ堕落したローマカトリック教会の神官みたい。
大企業はその下部組織、かなあ。 

教会は、富は、いったい何のために産まれたのかを考えると、未来のためなんですよね。でも「未来のため」を今の目的にすると、永遠にやってこない未来に今を食われてしまう。

それが疎外の本質と思います。

資本論1巻3章3節

マタイによる福音書 6:34
「だから、あすのことを思いわずらうな。あすのことは、あす自身が思いわずらうであろう。一日の苦労は、その日一日だけで十分である。」

スカーレットオハラの名ゼリフみたいですね。

みんな知っているんですよね
日々思い出して、日々実践するだけだよなと。

経済学・哲学草稿(マルクス)

「4.疎外された労働
 以上に述べたことは、大きくまとめると、労働者は労働の生産物に対し疎遠な対象として関係する、と表現できる。この前提から出てくる明白な帰結は、労働者が苦労すればするほど、かれが自分のむこう側に作り出す外的な対象世界の力が大きくなり、逆に、かれ自身の内面世界は貧しくなり、かれ自身の所有物は減少する、ということだ。宗教でも同じことが起こるので、人間が多くを神にゆだねればゆだねるほど、人間のもとにあるものは少なくなる。」

うん「このマルクス(初期)と資本論のマルクスには断絶がある」という伝統的な読み方があるんですけど、何言っているんだろう?って思います(笑

資本論の5章まで収録しているキンドルを検索すると「疎外」という単語は引っかからなかったんですが、「疎外」という言葉を使っていなくてもマルクスは疎外を表現しているように読めます。

そうですね。
レトリックを変えていて、内容もものすごく深化しているけれど


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です