ホーム » ことば » モズラー(MMT発明者)による資本論のような物価水準・インフレ論を精読する⑩物価水準の決まり方

モズラー(MMT発明者)による資本論のような物価水準・インフレ論を精読する⑩物価水準の決まり方

A Framework for the Analysis of the Price Level and Inflation という文章を頭から精読するシリーズの第十回。

今回は The Determination of the Price Level  のところ。ここが腑に落ちないと次節の「インフレダイナミクス」の意味が漠然としかわからない。実は恐ろしく精密な議論をしています。

きっかけ
Introduction 
I. The MMT Money Story 
II. The MMT Micro Foundation- The Currency as a Public Monopoly 
解説編: ”indifference” って何だろう 
が挟まる)
III. The Source of the Price Level 
IV. Agents of the State 
V. The Determination of the Price Level (ここ)
VI. Inflation Dynamics 
VII. Interest Rates and Wages 
VIII. The Hierarchy of Demand 
IX. Conclusion 

前回までの読解で準備ができたら、この節はもうわかるはずです。

V. The Determination of the Price Level
V. 物価水準の決まり方

The state sets the terms of exchange for its currency with the prices it pays when it spends, and not per se by the quantity of currency that it spends. For example, if the state has an open-ended offer to hire soldiers at $50,000 per year, the price level as thereby defined will remain constant regardless of how many soldiers are hired and regardless of the state’s total spending. The state has set the value of its numeraire exogenously, providing that information of absolute value that market forces then utilize to allocate by price with exchange values of other goods and services determined in the marketplace. Without the state supplied information, however, there would be no expression of relative value in terms of that currency.     

国家が通貨の交換条件を設定するのは、通貨を支出するときの価格であって、支出する通貨の量そのものによってではない。例えば、国家が兵士を年間5万ドルで雇うという無制限の申し出を持っている場合、それによって定義される物価水準は、何人の兵士が雇われようと、国家の総支出と関係なく一定に保たれることになる。このように、国家が外生的に貨幣価値を設定することで、絶対的な価値の情報を提供し、市場原理がそれを利用して、市場で決定される他の財やサービスの交換価値と価格配分する。しかし、国家の情報提供がなければ、その通貨を基準とした相対的な価値の表現はできない。     

 Should the state decide, for example, to increase the price it pays for its soldiers to $55,000 per year, it would be redefining the value of its currency downward and increasing the general price level by 10%, as market forces reflect that increase in the normal course of allocating by price and determining relative value. And for as long as the state continues to pay soldiers $55,000 per year, assuming constant relative values, the price level will remain unchanged. And, for example, the state would have to continually increase the rate of pay by 10% annually to support a continuous annual increase of the price level of 10%.  

例えば、国家が兵士に支払う価格を年間5万5千ドルに引き上げることを決定した場合、通貨の価値を下方修正し、一般物価水準を10%引き上げることになる。市場の力は、価格による配分と相対価値の決定という正常な過程でその増加を反映するからである。そして、国が兵士に年間55,000ドルを払い続ける限り、相対的価値が一定であると仮定すれば、物価水準は変化しないことになる。そして、例えば、毎年10%の物価水準の継続的な上昇を支えるために、国家は毎年10%ずつ継続的に給与率を上げなければならないことになる。

今やっているグラフモデルはこの部分を図にしてみただけなんです。

「国家が外生的に貨幣価値を設定することで、絶対的な価値の情報を提供し、市場原理がそれを利用して、市場で決定される他の財やサービスの交換価値と価格配分する。」

これは会計的に厳密に正しい!ということを読み取ってあげる人はほとんどいないかなあと。
というか、図にして初めてわかるところもあります。

なるほど

この文の後半ですが、モズラーは「インフレ」を政府支出に由来する価格変動と、次に出てくる時間構造に由来する価格変動の二成分にきれいに分けているという感じです。

前者の政府の価格設定は減衰せずに末端まで伝わるのでした

毎年10%の物価水準の継続的な上昇のところですね

交換が indifferent であれば全商品が文字通り兵士の価格にびったり連動しますよね。
それが indifferent という言葉の意味だというか。

そうですね

無制限の申し出というのもポイントですか

an open-ended offer to hire

これはJGP(職業保障プログラム)とも呼ばれるものですね。

これに対比させられるのが、国債をopen-endedに購入することに対する統合政府の姿勢です。
そんなことをやっているのにJGPはやらない。

いったい現代の政府は何をしたいのか?

金利生活者の生活を保証したい。
既に財産を持っている者への生活保証?

「一国で支配的な利子の平均率ー絶えず変動する市場率とは区別されたものとしてのーは,どんな法則によっても全然規定することのできないものである。この仕方では利子の自然的な率というものは存在しない。つまり,経済学者たちが自然的利潤率とか労賃の自然的な率とか言うような意味では,存在しない」
(マルクス『資本論』第三巻,S. 374)

よくみかけるこんな現象

https://twitter.com/ito_senpai1/status/1504682613113786371

利子率は自然ではないと。

利潤も自然ではないですねこのモデルによってそのことがハッキリわかっていくと思います。

鎖の出発点のところで行われる判断がそのまま転写されていくだけ

たとえば、銀行融資で家を買ったかるちゃんが家を別の人に売る。
商品の価格は「受胎」の時に決まる。

「原価」より高値であれば差額が「利潤」として記録される。

法則 「商品の価格とは、取引の決済が決定した瞬間の記録に刻印される数字であり常に過去の事象である」 

これがものすごーく重要で面白いところですので、イメージに叩き込んでいただきたいなと。

かるちゃんが次の持ち主に家を売る瞬間の表現のつもり

これからわたくしが何を表現しようとしているかがわかったら凄いですよ

なんだろう

価格が決まった瞬間?

そうです。
相手の人は、まだ誰だかもわからないけれどどこかの頂点にいることは確実です。
何度か出したこの図のどこか。

誰だろう〜

高く買ってほしい〜

そして、今回の取引でつながるのはこのうちの一人だけ。

繋がる瞬間に、その人の向こうで神経の伝達のように情報が始原にまでガチャンとつながる感じを出そうと次の図を作ってみました

おぉ

この系列のいくつかはもしかすると明治時代の支出に遡るかもしれませんが、とにかくひたすら遡ると、必ず政府か銀行貸出に起源が求められ、しかもぴったり今の価格と同額なんですね。

価格の情報伝達きたー!

というわけで「その通貨で売られてた商品の価格の設定者」は究極的には統合政府だと言うほかはないわけです

例えば買ったときより高く売れたとしたら、政府が家の価格設定がそうなるようにしているということですか?

売り手は無限に高く売りたいわけで、それを引き下げるのは買い手です。売り手の事情は関係がないと言っていい、みたいな

売り手はこうですね


かるちゃん
高く買ってほしい〜

たしかに

子供の頃、親たちって対面で価格決めてませんでした?
バベットの晩餐会って映画にもそういうシーンが出てきますが

とても良かったです

そういえば父がそんな話をしていました

鳥取に住んでいたときに

デベラの干物を行商するおばあちゃんたちがいて

何枚でいくらって交渉するんだけど

全部買うから〇〇でどうって提案するとすぐに交渉成立するって

重たい荷物を背負って売り歩くのはキツイから早く売り切りたいんだって

義父の家は商売をしていたので値切るのは当たり前だったとかそんな話を。

高いからいらんと帰りかけると、向こうから値段を下げてくるよとか。

今でも家電を買う時とか電気屋さんでは価格交渉しますよね?

家電は今は管理されていて値札が高いんですよ

あとこの動画
昭和の映像ですが10:40くらいから

おぉ〜

「高いわね」「しょうがないなー」とか言って量をおまけしてもらったり

さて、基本的に価格の鎖は indifferent であるというのがタテマエなのですが、そんなわけもなく、途中である条件を持った分子が介在すると、そこで価格が跳ね上がるんです。

いや、価格が跳ね上がるのではないですね。
価格はそのままで商品の価値が切り下がる。

うーん、正確にはどういえばいいのか。

「同じ価格で買うことのできる商品の量が減る」

ある分子とは?

売り手の時も買い手の時も有利な立場に立つような分子

利潤??

そういう形で現れることもあります

ときにかるちゃんは簿記やったことありますか?

ないです

なんか難しそう

天才の甲府ちゃんがやってましたよね

簿記なしで理解するMMT、みたいなのをやろうとしたことを思い出します

図だけ(簿記なし!)で理解するMMT その1(民間銀行の信用創造)

今思えば簿記は先にやらない方がいいのかなって気もするんですよね。

それはさておき、分子には「プロパティ」(属性)があるという話をしました

純金融資産だけでなく、性別、生年月日、出身地…も個人のプロパティ

この「プロパティみ」を感じることが簿記より先決だと思うんです

「プロパティみ」 、伝わりますかね

プロパティは分子の属性であり、矢印はそれを変化させる操作を表していることになります。
これはあとあととても重要。

なるほど

プロパティはストック概念で、矢印はフロー概念だ、などと呼ばれます。
フローは必ずストックを変化させ、ストックが変化したということはフローがあったということですね。

MMTやマルクスは、この整合性に徹底的にこだわります。

さて、取引の相手に対して強い決済能力を持っていると有利な価格を設定できるんです。
純金融資産というプロパティに自信があるという感じ。

元請けと下請けの関係みたいな…

ポケモンバトルとか妖怪なんとかで属性のポイントがありましたよね。

去年その話しましたね、懐かしい(笑)

決済能力が貧しい分子たちは、強いはずの買い手になる取引でも売り手に負けてしまいます

資本論の脚注にまさにそんな話が

決済能力のことまでちゃんと!

かるちゃんの注意力にも感動してしまう

わーいヽ(=´▽`=)ノ

「あれは合意だったよな!な!」という手口

この「強い方が有利になるのだ」というのがこれからの利子の話の前振りになります。

伊藤パイセンがよく、金持ちと庶民で着たり食べたりする物が違って、後者がどんどんスカスカになっている、みたいなことを言っていますが、これですね

CPIのような指数ではこれは決して見えません

何故かはわかりますよね?

決済能力の違いですよね。

とういうより、CPIのような指数では観測されないその理由です

高い値段が出せる相手には充実の品質を、安い値段しか出せない相手には値段よりも粗悪な品質を。なぜなら安い値段しか出せない人は選択肢が少ないから。粗悪なものでも買わざるを得ない。

伊藤先輩すごい…

平均すると格差が見えなくなる、確かに

もはや確信に近いのですが、女性の方が圧倒的に理解がちゃんとしているしMMTの理解が早いんですよね。それには理由があると考えています

それは階級が常に男性の一つ下だからで、抑圧されている状態ですから、社会が下降状態になった時に真っ先に被害を浴びるのは女で、炭鉱のカナリアのような役目を図らずも果たしているからでは。

ですよね。
そしてそういうのもグラフ理論的な分析にぴったりというか、それ自体グラフ理論の思考ですなあ。

あと、一つ一つの取引が indifferent ではないじゃん、とか、さらにそれが重なれば重なるほど増幅することを知っているというか。

グラフ理論だと、頂点のプロパティ、たとえば性別で色とかで分類して、全体の性質を分析したり表現したりすることが簡単にできる

へぇ!便利!グラフ理論って面白そうです。

先ほどの「資本論のパン屋の話」も、パン屋を二種類に分けましたよね。

そうですね

分類しつつ全体の様子を把握する、これが面白いんです。

CPIによる「分析」だと、全体の把握が超いい加減になるんです。CPIが上がったから景気が…とかバカじゃないの?、みたいな

確かに

さて、いよいよ次の章、以上を踏まえてインフレーションっていったい何?という話

つづく


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です