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モズラー(MMT発明者)による資本論のような物価水準・インフレ論を精読する⑫金利と賃金

A Framework for the Analysis of the Price Level and Inflation という文章を頭から精読するシリーズの第12回。

今回は  VII. Interest Rates and Wages  のところになります。

きっかけ
Introduction 
I. The MMT Money Story 
II. The MMT Micro Foundation- The Currency as a Public Monopoly 
解説編: ”indifference” って何だろう 
が挟まる)
III. The Source of the Price Level 
IV. Agents of the State 
V. The Determination of the Price Level 
VI. Inflation Dynamics 
VII. Interest Rates and Wages (ここ)
VIII. The Hierarchy of Demand 
IX. Conclusion 

最低賃金(最賃)に近い低賃金で働く人の割合が最近10年ほどで倍増しているという報道がありました

最低賃金近くで働く人が10年で倍増 非正規や低賃金正社員にコロナ禍も追い打ち:東京新聞 TOKYO Web

モズラーモデルで、政府に雇われない人の労働力の価格は、政府に雇われる人の労働力の価格に連動するのでした。

長谷川さんも同じことを言われています。

モズラーのモデルで考えると、社会保障は逆効果、せいぜいほとんど無意味であることが言えるような

社会保険料が負担になってます。

ご存じの通り長谷川さんなんかはベーシックインカムを研究推進されているけれど、さて、どうしてそれはマズいのか?

ベーシックインカムも政府の購入できる労働力や商品を減らすから?



かるちゃん
利払いは税の部分的免除みたいな働きになりますから、そのぶん経済主体からすれば通貨への需要が少なくなり、政府が購入できる労働力や商品が減りますね。



政府の力を弱める。

政府の購入できる労働力や商品を減らし政府の力を弱めるのはどうしていけないのですかね?
「民間の力」を育てるのが先決では\(^o^)/

えー

だって

民間は基本的に儲かることしかしないから

民間の力は大資本に収斂されていき、弱者は切り捨てられるかビジネスの養分にされるだけでは。

みんなにお金を配れば弱者も救われるのでは?

物価水準…

そうですね。ほんとうに救われるのか?
そういうことを考えながら本文に行きましょう。

VII. Interest Rates and Wages

An increase in the Central Bank’s policy rate in the first instance increases state deficit spending and total income in the economy. This means wages are then a smaller percentage of total income which to some degree, depending on propensities to spend, implies that the relative value of wages has decreased.

This further implies that if wages are indexed to the general price level in the context of a positive policy interest rate, an increase in the wage will cause a larger increase in the general price level, which will then trigger a higher wage, in an accelerating spiral.

However, in the context of a 0% rate policy, a wage increase would not be magnified by this process.

What I’m suggesting is that this combination of wage indexation and high policy rates of interest selectively observed in nations experiencing undesired increases in the price level ironically contributes to accelerating rates of increase the interest rate policy is meant to contain.  

まず第一節。

An increase in the Central Bank’s policy rate in the first instance increases state deficit spending and total income in the economy. This means wages are then a smaller percentage of total income which to some degree, depending on propensities to spend, implies that the relative value of wages has decreased.

中央銀行が政策金利を引き上げるとは、一義的には赤字支出を増やすということであり、経済の中の総所得が増加することになる。これは、総所得に占める賃金の割合が小さくなることを意味し、消費性向にもよるが、ある程度、賃金の相対的な価値が低下していることを意味する。

政策金利の上昇は不労の価値を高め、労働の価値を低めるというわけですね。

そうですね。
 to some degreeは「ある程度、」ではちょっと意味があいまいですが、感じがわかりますか?化学平衡と似ています。

20年ぶりに化学辞典を開いてみました

かなり驚きました!

逆向きの反応が拮抗していて、賃金低下に方向に反応が傾いているイメージですかね 

ルシャトリエの法則

「化学平衡にある系は平衡を決める因子の一つの変動の結果変化を受けるが、その変化は問題の因子の変動を減殺する方向に起こる」

いいですねー
ネイチャーの記事からも化学平衡の図を拾いました。
https://www.nature.com/articles/s41557-019-0273-2

41557_2019_273_Figa_HTML.png (685×387)

ということで、ある変化の結果、新しい平衡に移動してそこで落ち着くわけです

賃金の価値が低下した状態の平衡ですね

総所得に対する賃金の割合は直接減少しますよね。
そうすると総支出に対する賃金の割合は?

減少?

必ず減少するけれど、でも、総所得に対する割合ほどではない。貯蓄に緩衝(吸収)される分があるからということ。

総所得=総支出+総貯蓄
なので

だから to some degree という言葉を挟んでいるんです。工学的な感じ。

なるほど

第二節

This further implies that if wages are indexed to the general price level in the context of a positive policy interest rate, an increase in the wage will cause a larger increase in the general price level, which will then trigger a higher wage, in an accelerating spiral.
さらに、正の政策金利という条件の下で賃金を一般物価水準に連動させるとは、賃金上昇は一般物価水準の上昇をより大きくし、それが賃金上昇を誘発するという加速度的なスパイラルが発生することを意味する。

ちょっと読み取りにくいですが、これも工学的です。
インプットを上手にやらないと暴走する、みたいなイメージ。コンピュータのプログラムの暴走も似ています。

プログラマは誰でも知っていますが、設計ミスは意図とは異なる結果を出力してしまう。それは意図ではなく設計が悪い。

なるほど

どうして暴走するかがわからないと修正できないのですが、メカニズムがわかりますか?
ヒントとして政策金利がゼロの場合と比較します

金利は期間構造だったから、政策金利が正の時は物価水準は上昇する。上昇する物価水準に連動して賃金水準を上げると、さらにそれが物価水準の上昇の要素となり、期間構造の効果と相乗効果で物価水準を引き上げる?

政策金利ゼロの場合、期間構造としての商品価格の上昇もゼロ付近の分布になる。

その場合、期間構造による商品価格の全体的な上昇はほとんど無く、賃金水準の引き上げによる物価水準の上昇はそれ単体での影響に留まる。

かなりすごいです

ヽ(=´▽`=)ノ

MMTとしてはあと一言ほしくて、中央銀行が正の金利を維持するとは、支出することを意味している。

金利は財政支出の一種でした

一つ前のパラグラフの話ですね。
これがあると、賃金を上昇させても、物価水準の上昇は賃金上昇を必ず上回りますからいたちごっこになるわけです。

なるほど

第三節

However, in the context of a 0% rate policy, a wage increase would not be magnified by this process.
しかし、0%金利政策のもとでは、賃金の上昇はこのプロセスによって拡大されることはない。

ふむふむ

ただですね、実はゼロパーセントでもいたちごっこには変わりはないんです。

えー!

賃金上げる→物価上がる→賃金上げる→物価上がる

あ、そうか賃金水準の上昇でも物価水準は上がるから

よく考えると、正の金利はそれを間違いないく加速するという話なんですよねこれ

ところで
我が国の制度では、物価が下がると賃金は?

下がる?

人事院勧告は、民間の賃金と消費者物価指数を参考にして行われているので、勧告を受け入れたらそうなります。
但し、消費者物価指数はMMTが言う一般物価水準ではないですけど。

賃金下がる→物価下がる→賃金下がる→物価下がる

犯人は人事院だった!

国家公務員から労働基本権取り上げる代わりに勧告してやっからみたいな建前でありますけど

意図はどうあれ、メカニズムの理解が間違っているならシステムは入力通りに暴走するわけです。そのような勧告を受け入れる政府、ひいては国民自身が犯人なのですね。

ガーン:ギャー:

私自身も犯人の一味だった

自分の脚を食べ続けるタコ状態になってしまうんですよね

脚だけでなく本体とか脳みそも食べてそうな我が国

このデフレサイクルが回っているときに、統合政府が株を買うとどうなるか?

株保有者への財政支出となるから不労所得の価値を高め、大企業への直接の資金提供・財政支出となります。

相対的に労働の価値は切り下げとなります。

うん。
大企業への間接的な資金提供・財政支出

というのは株を企業から直接買うのではなく株主(市場)から買うからです

なるほど

景気対策ということで、企業への補助金や減税はどうですかね?

企業の通貨への需要を低めるから、政府が購入できる財やサービスが減る…?

正しいです

おぉ

見方を変えれば、自分の能力を企業に委ねることになる

っていうか、そうすることに他ならないですか

企業は政府から受け取った能力で、資本にとって都合の良い支出をし、構造を作れます。

すばらしい。
モズラーのこのセクションは賃金と価格が上昇するモードの話しか出てこないのに、理屈がわかれば逆パターンもしっかり説明できるようになる。

わーい

最後の節

What I’m suggesting is that this combination of wage indexation and high policy rates of interest selectively observed in nations experiencing undesired increases in the price level ironically contributes to accelerating rates of increase the interest rate policy is meant to contain.  
つまり、望ましくない物価上昇を経験した国で見られる賃金スライドと高い政策金利の組み合わせは、皮肉にも金利政策が抑制しようとする物価上昇を加速させる一因となっているのである。

もう復習ですね

はい

ついでに、政策金利の維持とは国債利回りの維持に等しく、それは中央銀行のオペレーションによって実現されていますよね

財務省と日銀の共同オペレーション

ありがとうございます
これは「国債をバッファーストックにして準備預金量を調節している」とよく言うわけですが、むしろ「準備預金をバッファーストックにして国債利回り(=金利)を調節している」と言ってもいいというか、そう表現するべきかもです。

なるほど

国債というIOUの価格を維持するオペレーションなわけです。

国債を売りたい分子(頂点)は買い手を見つけられなくても、中央銀行が最後の「買い手」になってくれる。
lender of last resort、「最後の借り手」政策と言われるものは、「最後の買い手」政策です。

ずっと気になっている言葉があってミンスキーのELR、employer of last resortなんですが。 employee of last resort ではないんですよね

労働力の「最後の買い手」。その意味で統一が取れているのだけど、売り手と買い手の向きが揃っているのが気に入らないんです。

すべての価値は労働から生まれるのに、買う方は政府が保証する。目線が逆だと売り手の労働力が網羅されないよね?っていうことだとすれば、末端は労働力の売り手を持ってこないと気持ちが悪いというか 

鎖は

買い手-(売り手-買い手)n-売り手

という両末端が対称形だから、この対称性を表現しないと

これを言うことによって真にモデルが完結するというか、気持ち悪さの理由がわかりました。

さて次回はいよいよ最終回

ついに!

最終回につづく


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