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〈1-16〉の精読その2

前回〈1-16〉に続いてもう少し。

前回言い足りなかったあれこれについて。

補足1

まず<1-16>の、最後のこの箇所は実に周到だと思いました。

Gesellschaftlich notwendige Arbeitszeit ist Arbeitszeit, erheischt, um irgendeinen Gebrauchswert mit den vorhandenen gesellschaftlich-normalen Produktionsbedingungen und dem gesellschaftlichen Durchschnittsgrad von Geschick und Intensität der Arbeit darzustellen. Nach der Einführung des Dampfwebstuhls in England z.B. genügte vielleicht halb so viel Arbeit als vorher, um ein gegebenes Quantum Garn in Gewebe zu verwandeln. Der englische Handweber brauchte zu dieser Verwandlung in der Tat nach wie vor dieselbe Arbeitszeit, aber das Produkt seiner individuellen Arbeitsstunde stellte jetzt nur noch eine halbe gesellschaftliche Arbeitsstunde dar und fiel daher auf die Hälfte seines frühern Werts.

 社会的に求められる労働時間であるが、これは、何らかの使用価値を、現存する社会的に正常な生産条件と、社会的に平均的な熟練度と強度でもって表す(darstellen)ところの労働時間である。たとえば、イギリスで蒸気織機が導入された後、ある特定の数量値(Quantum)の糸を織物に変えるのに必要な労働時間は、それ以前の約半分になった。イギリスの織工たちは、糸を織物に加工するために以前と同じ(dieselbe)労働時間を要としたが、彼の一時間あたりの労働の生産物は、今や社会的労働時間の半分を表す(darstellen)に過ぎず、したがって、価値は以前の半分である。

というと?

価値の実体を構成しているところの、「社会的に求められる労働時間(Gesellschaftlich notwendige Arbeitszeit)」について、先ほどまでは小麦と鉄という異なるの商品の対比で説明していたのを、ここでは織物という一商品の話に切り替えています。

蒸気織機が普及する前の時点と後の時点。
こうすることで話が立体的になるというか歴史的な感じになるワンね。

補足2:notwendig は「必要条件」の「必要」

ところで notwendig という形容詞、
notwendige Arbeitszeit は「必要な労働時間」と訳されるのが通例みたいですね。

いくつかの翻訳を調べましたが、今のところみんなそうです。

でも「社会的に必須な労働時間」という意味もあって、どちらかというとそちらの方が強い。

どう違うワン?

うーん

必要か必要でないかは人間が判断する余地がある感じがします。
必然にはそれがない。

蒸気織機はもう社会に登場してしまったし、社会の人間たち全体の平均的な勤勉さはそうそう変わるものではないワンね。

高校で「必要条件」「十分条件」を習うと思うけど、必要条件は notwendig Bedingung です。
最初習うとき、直感的には理解できなかったと思います。

暗記した覚えが

みんな結構努力して暗記するけれど、それだけ日本語としては自然な感じがしない言葉なわけだよ。
まあ、日本語と英独語の単語は一対一に対応しないから、逐語訳だと仕方ない面があるんだけどね。

ところで。。。

ちょっと待った
生産「条件」という言葉が登場したけどこの話と関係あるワンか?

うん、Produktions(生産の)bedingungen(諸条件)、複数形だから「生産の諸条件」やね。
そしてそれは、価値決まるための「必要条件」のひとつ。

おお

とにかく、ある商品を作り出すために「社会的に notwendig な労働時間」は「社会的に定まってしまう労働時間」という感じ。これを「社会的に必要な労働時間」とするとちょっと違和感がある。

なるほど。notwendingはやむを得ない、不可避の、っていう意味だから。

ということで「社会的に求められる労働時間」としておきますが、これがベストとも思えないので、今後気が変わったら全部変えるかも。

補足3:seine individuellen Arbeitsstunde

この件は長々と note に書きました。

そのブログのこの図で思ったのだけどね。
このオレンジ色のところを「セル」って言うワンね。

ん?

資本論の序文を眺めていたのだけど、そこでマルクスは「ブルジョア社会では商品の価値形態が経済的な細胞形態だから、解剖学で顕微鏡を使うように細かい詮索をする必要がある」みたいに言っている。

そうだったねー

セルって細胞って意味ワンね。

ああそうだねえ。

それ以上分割できない最小単位というか。

補足4:dar-stellen の繰り返し

上の箇所に二回 dar-stellen が出てくるのだけど。

分離動詞ワンね。
一つ目は darzusutellen という不定詞の形で、二つ目は stellte … dar と分離している。

うん。

一つ目のほう、ぼくは
「社会的に求められる労働時間であるが、これは、何らかの使用価値を、現存する社会的に正常な生産条件と、社会的に平均的な熟練度と強度でもって表す(darstellen)ところの労働時間である。」
と「表す」と訳しました。

ここは使用価値を「生産する」と訳されることが多くて、フランス語訳版でもそうなんだよね。
けど、ぼくはここまで五回出てきた darstellen がすべて「表す」「示す」の意味であることから、ここも「表す」という感じだと思っている。

そして、二つ目の darstellen は「表す」でしょう?

細かい詮索ワンね(笑

もし dar-stellen じゃなくて her-stellen だったら「生産する」しかありえないのだけど、ここは dar-stellen なわけよ。

そして実際、次回やる節では her-stellen がその意味で使われているわけで。

五回出てくるの数えたワンか(笑

最近作り始めた資本論データベースの便利なところでね。
dar-stellen または her-stellen が使わている場所を絞れるんよ。

原文和訳
51 Welches immer ihr Austauschverhältnis, es ist stets darstellbar in einer Gleichung, worin ein gegebenes Quantum Weizen irgendeinem Quantum Eisen gleichgesetzt wird, z.B. 1 Quarter Weizen = a Ztr. Eisen.両者の交換の関係がどのようになっているとしても、それは常に一つの等式で表すことができる。つまり所与の小麦の数量値(Quantum)に対して、どれだけの数量値(Quantum)の鉄が等置されるかの式で表すことができる。たとえば「1クォーターの小麦=aツェントナーの鉄」である。
51Ebenso sind die Tauschwerte der Waren zu reduzieren auf ein Gemeinsames, wovon sie ein Mehr oder Minder darstellen.同じように、商品たちの交換価値も、その多寡を表すある「共通なもの」に還元されるのである。
52Mit dem nützlichen Charakter der Arbeitsprodukte verschwindet der nützlicher Charakter der in ihnen dargestellten Arbeiten, es verschwinden also auch die verschiedenen konkreten Formen dieser Arbeiten, sie unterscheiden sich nicht länger, sondern sind allzusamt reduziert auf gleiche menschliche Arbeit, abstrakt menschliche Arbeit.労働生産物の有用性と共に労働生産物に表わされている労働の有用性は消え去り、したがってまたこれらの労働のいろいろな具体的形態も消え去り、これらの労働はもはや互いに区別されることなく、すべてことごとく、相等しい(gleiche)人間の労働に、抽象人間労働に、還元されているのである。
52Diese Dinge stellen nur noch dar, daß in ihrer Produktion menschliche Arbeitskraft verausgabt, menschliche Arbeit aufgehäuft ist.この物体が表わしているのは、ただ、その生産に人間労働力が支出され、人間労働が積み上げられたということだけだ。
53Das Gemeinsame, was sich im Austauschverhältnis oder Tauschwert der Ware darstellt, ist also ihr Wert.ゆえに、諸商品の交換関係および諸商品の交換価値のうちに表されている「共通のもの」は、商品の価値である。
53Die gesamte Arbeitskraft der Gesellschaft, die sich in den Werten der Warenwelt darstellt, gilt hier als eine und dieselbe menschliche Arbeitskraft, obgleich sie aus zahllosen individuellen Arbeitskräften besteht.社会の労働力全体、商品世界の価値に表現されるそれは、ひとかたまりで(eine)なおかつ(und)一定出力の(dieselbe)人間労働力なのである。それは無数の個別労働力で構成されているのであるが。
53Gesellschaftlich notwendige Arbeitszeit ist Arbeitszeit, erheischt, um irgendeinen Gebrauchswert mit den vorhandenen gesellschaftlich-normalen Produktionsbedingungen und dem gesellschaftlichen Durchschnittsgrad von Geschick und Intensität der Arbeit darzustellen.社会的に求められる労働時間であるが、これは、何らかの使用価値を、現存する社会的に正常な生産条件と、社会的に平均的な熟練度と強度でもって表す(darstellen)ために必須の労働時間である。
53Der englische Handweber brauchte zu dieser Verwandlung in der Tat nach wie vor dieselbe Arbeitszeit, aber das Produkt seiner individuellen Arbeitsstunde stellte jetzt nur noch eine halbe gesellschaftliche Arbeitsstunde dar und fiel daher auf die Hälfte seines frühern Werts.イギリスの織工たちは、糸を織物に加工するために以前と同じ(dieselbe)労働時間を要したが、彼の一時間あたりの労働の生産物は、今や社会的労働時間の半分を表す(darstellen)に過ぎず、したがって、価値は以前の半分である。

下二つが今回ワンね。
なるほどー

五回じゃなくて六回だった!